監督へのQ&A
映画監督を志したきっかけを教えて下さい
映画に出演したくて、劇団東京乾電池の研究生として1年間、演技を学びました。が、本劇団員には残れませんでした。その後、自分が脚本・監督をすることで役者としても出演できると思い、映画作りを始めました。
しかし、映画作りに夢中になり、もしくは余裕がなく、出演する機会はまだ得ていません。
『無防備』を撮った動機は何ですか?
妻の妊娠がわかり、それと同時期に主人公・律子と同じような悩みを持ち、苦しんでいる女性が周囲にたくさんいることを知りました。
流産と出産というかなりシリアスなテーマではありますが、自分自身の挫折経験とだぶらせることで、心に傷を負った女性がゆっくりと再生していくドラマを描きたいと思いました。
奥さんの妊娠を知ってから脚本作成し撮影準備を始めたのですか?
妊娠を知って、2カ月ほどしてから徐々に浮かび始め、書きました。
撮影準備もほとんど妻と二人で行いました。
トータルどのくらいの期間かかりましたか?
トータル10ヶ月。内訳はシナリオに2ヶ月。準備に3ヶ月。撮影は累積で3週間。編集は4ヶ月。撮影以外はほとんど別の仕事の合間に行いました。
○出産シーンについて
クライマックスでの出産シーンが成功していますがそのプロセスについて教えて下さい
定期健診にはカメラマンはじめスタッフも見学に行ったり、特別検診(おっぱい検診など)をみんなで受けたり、分娩室でのリハーサルなども綿密に行いました。
スタッフ・キャスト全員、未知の世界でしたが、各々の役割や立ち位置、カメラ位置など、ある程度の段取りを決めていたので、スムーズでした。
赤ちゃんが母親から生まれてくる実際のシーンを撮るのに撮影スタッフはどのように待機していたのですか?
ラストの分娩室以外は全て撮り終えた状態で、スタッフ・キャストには出産待ちをしてもらいました。
予定日より一週間遅れたので、その間は観光や海水浴、花火大会に行ってもらったりしていましたが、自分は実家のプラスチック工場で働いていました。
あまりにも陣痛が来ないので、自分も会社が休みの日曜日(8/5)に全員で動物園に行きました。そこで、破水が起こり、急いで産婦人科に直行しました。
陣痛で苦しんでいるシーンを序盤に撮り、その後、出産までの16時間は自分が妻の側に付き、スタッフ・キャストには控え室で待機してもらいました。
いざ産まれるという段になり、再び機材をセットし、全員で見守りました。
病室の出産シーンで主人公律子がそこに居合わせますが、それまで役者はどのようにしていたのですか?
控え室で待機。出産シーンは順撮りで、律子が笑顔になる顔のアップも出産直後に撮りました。出産前後での表情の変化に気を遣いました。
妊婦の千夏を演じた今野早苗さん(奥様)は実際の出産撮影に対して抵抗はありませんでしたか?
全くありませんでした。
病院の出産シーンの撮影はどのくらい時間がかかりましたか?
陣痛後、出産まで16時間掛かったこともあり、20時間ほどです。
リハーサルはしっかりとしましたか?
予算的・時間的な問題でほとんどできませんでした。
ただ、一日の撮影終了後、翌日の撮影のキーとなるシーンに関してはなるべくリハーサルをしました。
病院でどうやって撮影したのですか?
廊下や待合室などは病院の検診が休みの日に行いました。分娩室内は主人公・律子の感情の変化に合わせるため、全て順撮りです。
病院の協力体制はどうでしたか?
出産した病院は県内で非常に評判のいい病院です。カンガルーケア(臍の緒が繋がった状態で母に子供を抱かせる)や母子同室、母乳推奨といった、自分たちの希望に合った病院でした。
院長先生は実際に出産する母親が望むことなら全て受け入れてくれるご理解のある方でしたので、撮影も許可してくれ、非常に協力的でした。
ありがたいです。
関わった病院関係者の反応はどうでしたか?
思ったより大掛かりな撮影で、驚かれていました。
クライマックスに実際の出産シーンをもってくるのに、全体の撮影スケジュールをどのように組んだのですか?工夫した点は?
出産シーンは妻の出産に合わせて最後に撮ろうとスケジュールを組みました。
逆算して他の撮影を撮ったのですが、いざ蓋を開けてみると、予定日が一週間も遅れ、スタッフ・キャストに出産待ちをしてもらう羽目になりました。
工夫した点は、出産前後で主人公・律子の表情に変化が起こると思ったので、順撮りした点です。
○登場人物について
流産し冷めた夫婦関係のヒロイン律子と妊娠し円満な家庭を持つ千夏を対比させたのはなぜですか?
過去の悲しみや苦しみから解放されるには、ある程度の時間と、その過去に向き合おうとする勇気が必要だと思います(自分自身、そううまくはできませんが…)。
律子の理想の存在として出産間近の千夏を出すことで、向き合う機会を生じさせました。
劇中に出てくる男性がみなダメ男ですがなぜですか?
男性に限らず、欠陥がない人間に会ったことが無いからです。
○演出について
女性たちの心理を描くのに、参考にしたモデルはいますか?
特にいません。根底では、男も女もそれほど違いが無いと思ってます。
ただ、非常に繊細な部分は、脚本の段階から妻に相談しました。
主人公律子が蜘蛛をコップで覆うシーンは彼女の心情をあらわしているのですか?
コップで覆う行為は密室です。妊婦のお腹の中も言い換えれば密室です。
同じ密室でも、閉じ込めることと、守ることの違いがあります。
律子のやりきれない思いや、日々の生活の中で、ふと悪意めいた行為をしてしまう人間を描きたいと思いました。
工場の場面ではコミカルな表現がありましたがそれを入れたのはなぜですか?
ユーモアや笑いで人と人が繋がっていくと思います。それは律子と千夏でもあり、映画と観客でもあると思います。
工場で働いているという設定にしたのはなぜですか?
工場は実際に自分が働いていた実家のプラスチック工場です。
初めて劇中の工場で働いたときに無機質な感じがしました。
その無機質さが律子の凝り固まった心情にリンクすると思ったからです。
田んぼのあぜ道をヒロインが疾走するシーンは何か演技指導されましたか?
「ダイナミックに走ってくれ」と伝えました。森谷さんは学生時代、剣道部だったため、裸足で走るのに慣れていたという点も活きていると思います。
走るシーンの効果音として太鼓の音を使ってますがなぜですか?
ありがちですが、太鼓しかないと思ってました。
主人公の激しい鼓動や息遣い、緊迫感を表すためです。
ラストで顔中泥まみれのヒロインが乾いた顔の泥を涙で濡らすシーンに込めた監督の思いは?
律子は自ら田んぼに突っ込み、自らの涙で泥を洗い流します。
結局、最後は自ら立ち上がるしかないんだという想いです。
監督が一番印象に残っているシーンは何ですか?
最後の律子の笑顔です。
いままで森谷さんを見てきた中で、一番きれいだと思いました。
監督の実体験がはいったエピソードはありますか
感情的にはありますが、行動としてはありません。
○撮影について
撮影場所(田んぼのあぜ道、プラスティック工場、Y字路、恐竜がいる公園など)のこだわりはありますか?
【田んぼのあぜ道】
律子と千夏が歩くとき、何もない広大な土地だからこそ、二人の歩く姿が明確に映り、距離感(心と体も)が表しやすいと思いました。
【プラスチック工場】
無機質な感じが律子の心情とリンクしている。
【Y字路】
なんでもない別れ道が人生の岐路だったりするんだろうな、と思ってます。
【恐竜がいる公園】
本能のままに生きる恐竜に、感情が剥き出しになっていく人間をだぶらせたかった。
全編富山で撮影した理由はなんですか?
実際に富山に住んでいたから。
自分の故郷、原風景を撮ることで自分自身を見つめ直しながら撮影できると思ったから。
前作『隼』についておおすじを聞かせて下さい
真夏の暑い日、エアコンの無い貧乏夫婦がエアコンを手に入れようと奔走する話。
『隼』に続いて『無防備』に森谷文子さんが出演してますが再び起用された理由は?
持っている空気感(学校で言うところの、教室の片隅でじっとしているような)が自分と似ている。
森谷さんなら「無防備」の世界を理解し、演じきってくれると思ったから。
『無防備』のタイトルの意味
主人公・律子の凝り固まった心が徐々に開いていく様子を表した。
妊婦そのもの。産まれてくる赤ん坊の無垢な感じ、無邪気さ。
